sangak’s diary

『アルスラーン戦記 第16巻 天涯無限』感想

天涯無限 アルスラーン戦記 16 (カッパ・ノベルス)

■最後の一字まで味わい尽くした読後感

 

 田中芳樹氏の『アルスラーン戦記 第16巻 天涯無限』読了。
 読み終えた感想をまとめています。具体的なネタバレは避けますが、微妙なネタバレでもイヤという方は、お読みにならないことをおすすめします。
 最終巻です。グランドフィナーレです。トゥルーエンドです。
 丸々一冊、ほぼ死闘苦闘敢闘で埋め尽くされています。その戦いの中で、アルスラーンが、十六翼将が、それぞれの天命を全うしていきます。
 冒頭から衝撃的な展開が待っています。一冊読み飛ばしたのかと思うくらいの急展開です。
 終盤の展開は、田中氏の『マヴァール年代記』を彷彿とさせますが、最後のくだりでは、同じく田中氏の『銀河英雄伝説』のとあるエピソードを想起しました。
 この終わり方は賛否あるかもしれません。
 ですが、個人的には大満足です。
 世界各国の歴史に通じ、またいくつもの歴史小説を書きあげてきた、田中氏ならではの結末を見た想いです。これまでの作品の傾向と、ここに至る物語の積み重ねから、ある程度の予想はしていましたが、この締め方はまったく想像していませんでした。

 

 ここから少しネタバレです。

 

 具体的に言ってしまうと、本書212ページの時点で物語が終わっていても十分に成立するのです。その時点で、ひとつの歴史物語を読み終えただけのボリュームを感じていました。一抹の寂しさを感じつつも、長い道程を歩き終えた満足感、あの独特の感覚ですね。
 しかし、本書ではそこからさらに夢のような一幕が待っていました。
 213ページから始まる「Ⅶ」を読んでいる間、劇中の某人物の心境と完全にシンクロしていました。そこで描かれる会話のひとつひとつに胸が熱くなるのを感じ、残りわずかなページに、一文字読み進めるのさえ惜しくなる想いでした。
 あるいは、これは読者に向けた田中氏のサービスなのかもしれません。少なくとも自分は、このエピソードがあったおかげで、とてつもなく心地よい余韻に浸ることができました。

■古典の名著との共通項

 

 本作は、中国の四大奇書のひとつ『水滸伝』と、ある種、似ているところがあります。
 第一部は、ひとりの主のもとに英雄豪傑たちが集結するまでの話、第二部はその英雄たちが強大な敵と戦っていく話。その戦いのなかで、英雄たちは、ある者は戦場で斃れ、ある者は病に冒され、またある者は国を捨て、最後にはみながバラバラになって物語は終わります。
 余談ながら、自分の周りでは、「『アルスラーン戦記』って第一部は面白かったけど、第二部はなぁ……」という声が多く聞かれていて、じつはその点も『水滸伝』と共通しているんですよね。頼もしい仲間が、ひとりまたひとりと増えていく話は心が躍るものですが、その逆は辛いものがあるからかもしれません。
 正直な話、自分も十六翼将が斃れていく展開は本当に辛かったです。どのキャラも非常に魅力的だったので、欲をいえば、少年漫画的なノリで、最後まで全員が生き残って欲しかったです。 
 とくにこの最終巻は、1ページ読み進めるたびに心が折れそうになりました。あれだけ勇敢な十六翼将が、あれほど精強を誇ったパルス軍が、無残に散っていくのですから。
 物語のラスボス・蛇王ザッハークとの決戦ということで、激戦になることは予想していました。ですが、これほど凄惨な戦いになるとは思っていませんでした。思い入れのあるキャラが物語の表舞台から退場するたびに、本を閉じたくてたまりませんでした。
 しかしその一方で、1行読むごとに、過去の因縁が精算され、物語の謎が明らかになることで、物語のゴールが近づいていることを実感してしまうと、どうしてもページをめくる手が止まらないのです。
 長々と駄文を連ねてきましたが、これ以上、語ろうとすると、どうしても詳細に触れてしまうので、今回はここまでにしておきます。
 一言で言えば「面白かった」に尽きます。
 この最終巻を読んで良かった。
 『アルスラーン戦記』を読み続けてきて良かった。
 学生時代に『アルスラーン戦記』を薦めたくれた知人に感謝の言葉を捧げたいです。